■ 企業の社会的責任について
林 昌宏(ボランティア) 

批判集中のウォールマート

ウォールマートに関する批判の記事、書籍、インターネットサイトは、限りなくある。世界第1位の流通業者として140万人の雇用を抱えるこの大企業は、9つの大陸で1100以上の店舗を有している。

批判の矛先は、ウォールマートの企業理念に向いており、ウォールマートの競争原理が、徹底した低賃金、生産者搾取政策にあり、同業他社を廃業に追い込む手法は、あまりにも強引であるとのことである。他企業を買収して拡大していく手法は、最近では、西友を土台とした日本進出にも現れており、世界の雇用賃金体系にも影響を及ぼすのではないかと恐れられている。

給与体系も報酬を株価に反映させるストックオプションを取締役や外部取締役などのみに適用し(現在は改善された)、国際部門総括責任者のMenzer氏の基本給は、163万ドル、プラス・ストックオプション100万ドルとなっており、こうした社会の2重構造を加速させるような給与体系も本国アメリカで集中砲火を浴びている。地域性を無視した全店舗同一価格もまた強い批判を受けている。内部告発も頻繁に行われており、労働組合との折り合いの悪さが露見している。以下は、その内部告発の記事の代表的な論旨である。

世界中の労働組合にとってウォールマートほど特殊な企業はない。ウォールマートは、規模に物を言わせて生産者に一方的に条件を課しており、このようなやり方において同業他社は、全く太刀打ちできない。ウォールマートの物流のネットワークは、非常に効率的であり、ウォールマートが、さらなる利益を規模の拡大から追求できる体制を整えている。そして現在のビジネスモデルと労働管理方式を用いて他国にもさらに進出していくであろう。特に、流通業界において同業他社により承認されている労働者の賃金や利益に関する共同合意をウォールマートが、踏みにじる結果、業界全体の労働賃金が、不当に安く据え置かれることになる。労働者にきちんとした賃金と労働条件を約束する共同合意を遵守する他の経営者は、ウォールマートの凄まじい価格競争に巻き込まれて大きなプレッシャーを受けることになる。

労働組合だけをこのウォールマートの恐怖にさらすべきではない。消費者も政府もウォールマートが太り続けるのを許すべきではないし、現在のビジネス手法と労働慣行を持ち込んで他の国々に進出することを容認すべきではない。志の高い企業が淘汰されればサービスは悪化し、失業率は増大するであろう。生産者もまた容赦なくウォールマートの強靭な価格操作の元に屈し、未就学児童の労働や強制労働といった慣行を棒滅することがより困難になるであろう。低コストが最優先事項となったとき製品の質の劣化は、避けられないであろう。長期的に流通業界が他の産業と比べて競争力のある賃金や労働条件をもってしてきちんとした職業訓練を行うことができなければ、流通業で働く人々が提供するサービスの質の劣化は、免れないであろう。

企業の社会的責任を果たすことによってどの程度企業にとってメリットがあるのであろうか?


経営者からの視点(グローバル・ファイナンス・マガジンより抜粋)

ここ10年来、企業は、消費者や投資家から企業市民としての役割を果たせとの圧力を受けている。しかしながら企業の経営者は、この企業の社会的責任がどの程度企業の業績に反映するのか注意深く観察している。

企業市民、企業の社会的責任、持続的発展などさまざまな呼び方で呼ばれているこの企業努力に関して最近の研究結果が発表された。持続的発展に関して格付けをするドイツの独立調査団体であるオエコムによれば企業の持続的発展への努力と企業の財務状態には正の相関関係があることが明らかになった。この調査は、モルガンスタンレー・ディーン・ウイッターと共同で行われ、持続的発展のために努力している企業は、そうでない企業に比べ株価が順調に推移していることが明らかになった。モルガンスタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)ワールド・インデックスに載っている602社を対象にオエコムが社会環境に対する企業取り組みの観点から査定を行った。

モルガンスタンレーは、1999年の1231日から2003年の107日までの株価を計算したところ、オエコムにより上位に格付けされた企業では、そうでない企業と比較した場合23.4%も株価において差が出たとのことである。また2003年を通じて最高の企業の社会的責任を全うしている企業は、MSCIワールド・インデックスの平均株価よりも3.8%も株価が良好に推移した。

持続的発展に資する企業努力は、より良い財務成績に結びつき、良い財務状態は、さらなる持続的発展のための投資行為が可能となる。オエコムの調査によれば、よい企業経営とは、良い財務状態と持続的発展を生み出す傾向にあるということがわかる。

オエコムによれば2010年には、企業の持続的発展の取り組みを格付けすることは、企業の株価と社債を評価するうえで欠かせないものになるであろうとのことだ。自動車業界を眺めてみても、先進的な取り組みで知られるドイツのBMWやフランスのルノーは、20009月から20039月にかけて平均8.8%株価が上昇したとのことだ。一方ではアジアの自動車産業は、こうした取り組みが遅れており、株価は9%下落した。

今回の調査で明らかになったことは、こうした持続的発展のために投資をした企業が、すぐには利益を享受できないのではないかという懸念も誤りであることが判明した。「持続的発展というのは、付加価値のついた要素である。」モルガンスタンレー・プライベート・財務管理の責任者であるマルクス・クリセル氏は語る。「持続的発展と財務パフォーマンスにはポジティブな相関関係があり、持続的投資分野へ多大な資金を呼び込む。」

企業経営者もまたこうした現実を直視し、80%以上のアメリカ人経営者は、良い企業市民であることが企業業績に多大な影響をもたらすと感じている。またアメリカ商務省などの調査によればこうした企業努力は、自発的形で成されるべきであり、80%の取締役は、政府の法制化によって規制されるべきではないと答えている。また85%の企業は、既に地域社会に貢献しているが、大衆に充分認知されていないと漏らしている。

企業の社会的責任とは、ある種のプログラムを実行したり、企業方針を変更したり、また企業の社会的責任に関するレポートを発行したりといった作業が付きまとう。こうした作業にかかる費用が捻出できないとする企業が46%に上るが、こうした企業の社会的責任に投資する企業の数は、継続的に上昇している。この調査で大部分のアメリカ企業は、企業の大きさにかかわらず、地域社会のために金銭やボランティア活動や財やサービスを提供していることが明らかになった。

企業の社会的責任を全うすることは、社会において当然視されるようになってきた。世界経済フォーラムにおいて企業市民とは、競争力、統治力と並んで3本柱の1つと位置づけられており、企業幹部の最重点課題になっている。法令順守や企業の慈善事業だけでは、充分とはいえない。

「国際的政情不安や貧困の高まりや、グローバリゼーションの逆流、市民に蔓延する大企業不信感を受けて、より広い社会的価値を企業として発信するように企業経営者に対する圧力が日増しに増大している。」との傾向が、世界経済フォーラムとプリンス・オブ・ウェールズ国際ビジネスリーダー・フォーラムにより行われた企業市民に関する調査結果から明らかになった。またこうした状況において、適切な利害関係者の関与の下で、企業の社会へのインパクトや貢献を適切に管理する手法が求められている。「私企業や民間部門での許容量や責任を超える事態に対処するために官と民のパートナーシップが必要である。」とこの調査には記してある。「これらの分野には、職業訓練、教育、医療、水道、エネルギー、信用供与、市場へのアクセスや、また、汚職、資金浄化、犯罪、テロ行為などの社会問題も含まれている。」2002年には、世界経済フォーラムのメンバーは、世界企業市民として共同声明に署名するだけでなく、企業責任者によるこうした行動への枠組みを構築するためのさらに進んだ一歩を踏み出した。

企業の社会的責任を果たした結果として得られる利潤を得るためには、企業は、単に口先だけで行動が伴ってないと批判されないために確たる証拠を示さなければならない。社会的に責任ある企業をいくつか列挙してくれとヨーロッパ・ビジネス倫理ネットワークの代表に尋ねたところ、該当する企業はないとのことだ。

「多くの企業は、こうした課題をようやく理解し始めたところで、とても特定の企業名を挙げられる状態ではない。」「PRばかりでほとんど実態の伴わないものばかりだ。」

「大部分の企業が、こうした問題に対して受身的に反応するばかりで、独自の企業の社会的責任を果たそうとする企業は少ない。」「こうした状況では、企業の社会的責任が、メディアを通じた利害関係者の圧力に対応する単なる企業のPR活動による情報操作合戦に陥ってしまう恐れがある。企業は、社会的責任対策を企業の操業に織り込まなくてはならない。企業の社会的責任の基盤は、その内容と実践にある。」

企業の社会的責任を果たしている事例は、たくさんある。イギリスの石油会社BPは、硫黄をほとんど含まない公害の少ない燃料や再利用できる燃料をイギリスやヨーロッパで販売し、エジプトでは85%ほど公害を低減できる圧縮天然ガスを供給し、オーストリアでは、環境に良い潤滑油を導入した。イギリスの小売業者であるテスコは、カギとなるパフォーマンスのリストを作成し、企業の社会的責任について毎年最低4回の管轄部署を超えた会合を行っている。

企業の社会的責任の実践が実際の利益に結びつくためには、企業は、世論に企業の取り組みを訴える必要があり、48%の企業がこうした取り組みについてのレポートを作成しており、また77%の企業がインターネットを利用して情報を発信しているとのことである。

5万社の多国籍企業と何百万の中小企業が活動している状況において、ほんの数千社のみがレポートを作成している状況である。

こうしたレポートの内容も年々充実しており2000年には平均59ページであったものが2002年には86ページまでになっている。しかしこうした統計に懐疑的な意見もある。環境保護、森林を守る、が大部分の企業が取り組んでいる社会的責任の基礎を成している。多くの企業は、消費者や投資家が彼らの関心のある情報を見つけてもらうためにレポートの中にありとあらゆる情報を絨毯爆撃のようにちりばめている。

経済パフォーマンスは、財務情報だけに限らない。

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